立位姿勢と臥位姿勢の比較

立位姿勢や歩行解析といった起きている時の姿勢研究に比べて、睡眠姿勢の研究は乏しく、評価するスタンダードな方法さえありません。当初はそれを嘆き、何を指標に臥位姿勢を研究すればよいか思案していました。

しかし、嘆くことなかれ。視点を変えてみると、立位姿勢の評価方法の中に臥位姿勢にも応用できるものがあります。それが次のパラメータです。

6つのパラメータである矢状面バランス(SB)、仰臥位頚椎傾斜角(SCT)、頚椎の前方への彎曲度合い(石原指数)、胸椎の後方への彎曲角(TK)、腰椎の前方への彎曲角(LL)、骨盤の回旋角(PT)について、立位姿勢と臥位姿勢で比較しました。

なんと6つすべてのパラメータが、立位から臥位で有意に変化したことがわかりました。頚椎、胸椎、腰椎のすべての彎曲が減少し、背骨全体の凹凸が平坦化して直線に近づき、骨盤も前に傾きました。

要するに、6つのパラメータを用いると、立位と臥位は明らかに違う姿勢であることが証明できました。

最も注目すべきは、臥位姿勢のバランスの良し悪しを判断するための矢状面バランスです。矢状面バランスとは、C7水平線(C7HL)と大腿骨頭線の距離で、体を横から見た時の背骨全体と骨盤・下肢の位置関係を評価する指標です。

矢状面バランスは8歳でも69歳でも、立位ではマイナスバランス(下肢より背骨が後ろにある状態)だったのが、臥位では自然とゼロバランス(下肢と背骨が一致)に近づいています。

高齢者ではゼロにはならなくても、立位より減少しバランスが改善するのがわかります。つまり睡眠姿勢とは、どんな人にとっても姿勢バランスが改善する方向に向かうということがわかります。このバランスが崩れる枕などを使っていると肩こりが枕によって引き起こされることになります。

正しい睡眠姿勢で眠ることが大切なのです。

ただし、加齢に伴って骨や関節の変形が進み体が硬くなると、バランスが元通りに改善するのは難しくなります。ですから、少しでも早い時期から睡眠姿勢を見直し、負担をかけない姿勢を心がけ、変形などを最小限に留めながら年を重ねることが大事なのです。

 

臥位におけるよい姿勢とは

睡眠中はどんな姿勢がいいのかというと、残念ながら、解明されていないのです。

善し悪しを判断するのに、まず必要なのが、睡眠姿勢の基準線です。基準線がなくては良し悪しは判断できません。

そこで私は、独自に睡眠姿勢の基準線を定義しました。ヒントとなったのは、立位の重心線です。この重心線を寝かして、床に平行にした線を睡眠姿勢の基準線にしたのです。

少し専門的になりますが、立位では、第7頚椎(一番下の頸椎)から重心線に沿って下した線を整形外科では、(C7 Plumb Line)(C7PL)=第7頚椎鉛直線といいます。

寝た時も同じ第7頚椎から床に平行に直線を引きます。これを(C7 Horizonal Line)=C7水平線と名づけました。

私は睡眠姿勢の重要な基準線を発見したことがうれしくて、一人で興奮したほどでした。

基準線ができたのですから、あとは姿勢に関する様々な角度を測りまくりました。

すると驚くような事実をたくさん発見したのです。

 

「姿勢」を考える

そもそも「姿勢とは何か」という定義は、なかなか難しい問題です。『広辞苑』によれば「姿勢とは、からだの構え、からだつき。事に当る態度」と表記されています。

運動学的には、「姿勢postureとは、身体各部(頭、体幹、四肢)の相対的な位置関係=構えatitudeと、身体と重力との関係=体位positionの組み合わせで表現される」と、やたらと難しい定義になっています。構えは、前かがみ、腕を上げる、膝を曲げるなど。体位は立位、座位、臥位などです。

整形外科の見地からすれば、身体各部のアライメント(並び)、すなわち、骨格のつながり(体軸)が適正か異常かが問題となります。

ここでは、専門用語が繰り返し書かれています。臥位=寝る姿、側臥位=横向きで寝る姿、仰臥位=仰向けで寝る姿、睡眠姿勢=睡眠中の姿勢のことだというのは、もうおわかりいただけたと思います。さらに、頚椎は首の骨、胸椎は胸の骨、腰椎は腰の骨のことで、この3つを総合して脊椎と表現しています。

立位姿勢において、よい姿勢の評価の基準となるのが重心線です。重力は人体を地球の中心に引っ張る力で、この方向を鉛直方向と呼びます。重力環境下で行われるすべての体の姿勢や身体運動は力学の法則に則っています。重力は私たちの身体運動を支配する普遍的な存在なのです。

つまりヒトの体を物体と考えれば、質量中心(重心)の移動は、必ず力学的法則に則って起こります。これからお話しする睡眠中の寝返りも、重力下における重心の移動に他なりません。

姿勢保持に必要なエネルギー消費を最小限にするために、重心線が理想的なアライメントからはずれたら、ただちに元に戻すような代償性姿勢戦略が働いています。これは重力に抗して働く筋肉と、外的刺激に対して姿勢を維持する神経の調節機構によって行われます。

 

ライフスタイルに伴って、姿勢は変化する

枕を語る上で、枕だけではなく、人間の姿勢というものについても考えねばなりません。

私たち人間は、重力に抗してゆっくりと身体機能を適応させてきました。人類は二足歩行をする猿人から脊椎の彎曲が減少し背筋の伸びた姿勢へ進化しました。

しかし、文明の発達に伴い道具を使いこなすようになった現代人のライフスタイルでは、これに逆行するかのように、重力に負けた不良姿勢となっています。

たとえば、安楽椅子に座った不良姿勢でテレビを見たり、パソコンに向かった前かがみの姿勢などが典型的な例です。

軟らかくゆったりした休憩用の椅子では、体が沈み込み背中は丸くなりますから、首や腰の神経を圧迫してしまいます。

また、前かがみの姿勢を長時間続けていると、目の疲れが生じるのはもちろんのこと、背部の伸筋が弱くなり、より一層不良姿勢になったり、痛みなどの症状が出現することもあります。

立位の歩行解析は、身体運動学において多くの研究者によって行われています。

座位のシーティング解析(椅子の座面の形状や圧力等と人体の関係)も、車椅子や乗り物のシートの研究において盛んに行われています。そのため、これらについては分析機器、評価方法などの研究手法がかなり確立されています。

しかし、臥位における寝返りの運動解析は非常に少ないために、コンセンサスを得た研究手法がない状態です。

臥位の運動解析のためには、体軸の理論と同様で、まず立位や臥位で用いる手法の何が応用できるか、といった模索から始めなければなりませんでした。

 

眠りの意識、モノ、サービスの革命

睡眠姿勢革命とは、意識革命、モノ革命、サービス革命の三位一体によってもたらされる人類の姿勢の革命です。

なかでも、意識革命は最も重要です。枕や寝具の条件によって決定される睡眠姿勢は、健康増進や疾患の治療にもなるといっても過言ではないほど重要な役割を持っています。

このことをつねに意識し、みずからの睡眠姿勢を正すようになることです。これはとても大切なことです。

モノ革命は、人々が自分の身体に適合するオーダーメイドの寝具で毎晩眠るようになることです。このベッドの開発秘話については、後ほど詳しく述べていきたいと思います。

サービス革命は、ユビキタス情報環境をフルに活用して、生涯にわたる睡眠姿勢の見守りと、自宅に加えて、旅先のホテルなどどこでも、本人 に適合した寝具で眠れるようになることです。これについても後ほど詳しく解説していきたいと思っています。

肩こりなどで困っている人だけではなく、特に体に異常を感じていない人でも睡眠時の姿勢に気をつけていかなければならないのです。